彼女は私に笑みを浮かべては、その白雪のような冷たい頬を赤く、
熱く染めあげた。
同じ空間に居ると云うのに、彼女と私の周りだけが異様に熱い。
年季の入った気に入りのヨレたシャツが肌に張りつき、長年連れ
添った傷だらけの相棒を持つ右手の汗にも嫌悪感を持つ。
何処で間違えたのだろうか。どこで手放したのだろうか。
ドコで見落としたのだろうか…。
自身のゴツリとした輪郭に沿って汗が雫を落とす。
一滴がアスファルトを汚した。それだけで彼女はその色を深く
煮詰め、形の良い唇を三日月のように撓(シナ)らせた。
喉が、渇く。
「…何が可笑しい。」
彼女の髪が、少し揺れた。白髪混じりの自身のとは違って、絹に
墨を漬からせたかの様な、よく手入れをされた艶やかな髪だ。
見慣れた、髪だった。
その揺らぎが答(トウ)だと云わぬがばかりに、彼女の三日月は沈黙を
愛した。
それは少し、夜の静寂さと似ていた。
いいや、彼女は"夜"そのもので在った。
その夜が、人の灯火をもぎ取ったのだ。
恥じらいも、呵責(カシャク)も、慈悲も無く、淡々と幕を落としたの
だろう。
それが真実だと伝えるかのように、彼女は足元の固形物を関心も
無く、紅黒く踏みつけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…
小説のように急に書きたくなったお話し
ではでは,お休みなさい…(-_-)zzz
(2021.05.21(金)に手直ししました)