「…ッお前なんて、お前なんて初めから大嫌いだった!!!」
初めて聞いた言葉だった。初めて知った悲痛なる思いだった。
この心臓を鈍器で殴られた方が未だマシだと思えるような烈々な
痛みで殴打され、まるで、彼の言葉一つ々々に連なって
込められた弾丸をこの身一つで全て撃ち射(イ)られたかの様な衝撃に、
見えない鮮血が足元を散りばめられては地面を彩る感覚を得た。
あなたの事は山のように愛していた。
あなたの事は海のように受け入れていた。
あなたの事は地のように共に在りたいと願って居た。
あなたの事は、あなたの事は誰よりも………。
何時からこの情が…、何時からこの情が枯れる事の知らぬ泉の様に
湧き出てしまったのだろうか。数節(セツ)前にあなたと共に調査した、
最奥まで澄み渡ったあの清き泉の景色を思い出した。
私の忠告も聞かずにあなたと云ったらあの時に。
「……っぷ、ふふふふふ。」
「…ッ、何がおかしい!」
私を睨みつけるあなたの顔を見たらもう!もっと悦(エツ)らつと
おかしくなり、先程の苦しみとは打って変わって…、いや、
これこそがメインディッシュだと云わんがばかりの心情に、
この転じられた愉快さが逆に面白おかしく我が身に感じ入って
しまったのだ。
まさしく"ツボに入った"との比喩が確実に似合ってしまう程の、
毛を一本々々丁寧に逆立って憤怒をした猫のような愛らしい表情だ。
本来ならば何時も傍に在った顔の、見知った顔の一つでもあった。
"チャラリ…"と私の首元に添えられる切っ先の鋭さが無ければ、
それをしっかりと持つのがあなたでは無ければ、この喜劇の為の
スパイスだったと嘯(ウソブ)いて、はにかんではトボけてほしかった
程の悲痛なる心の揺らぎだったのだ。…また、失うのだ。
また、滑り落ちるのだ。全てを。これ程求めて居たと云うのに。
「……何時から分かったの?」
スッと、あなたの言葉に返答もせずに雰囲気を変えて魅せる。
目の前のあなたと共に周りの外野もこの差異に空気を少し震わす。
当たり前だ。アナタ方がイメージする冷酷非道さを私は親切に、
ありがたくも、この身に纏(マト)ってあげたのだ。この場面において、
お涙頂戴な健気さに向かって誰かに褒めてほしい内心のコミカルさが
無ければきっと私は、いや、確実に私は脆くか細くこの切っ先を
忘れて、息を忘れそうな程の華美で、重々しく着飾ったあなたに
縋りついて居た。
どうしてなんだ、…って。
鉄を造る炎の温度よりも熱く、鋭い猛りを見せる双眼が真っ先に
口を開く事をせずに私を射抜き続ける。それが答えなのだ。
それが、全てなのだ。
冒頭に殴打された心臓がまた、強くえずき出した。また、見えない
血潮が上書きで赤黒い地面を彩る幻覚に、思わず涙が出そうになる
気持ちを留める事が出来無かった。
もう、この先枯れるであろう泉はどうしようも無いのだろう。
あの頃のように、二人で解決をした清き泉のようには決してならない
のだろう。
どうしてあなたは私と同じでは無かったのか、どうして私は私なのか、
どうしてあの時にあなたを見初めてしまったのか、どうして安らかな
微睡(マドロミ)に刻み目を入れられてしまうのか、どうして夢にされて
しまうのか、どうして何もしていないと云うのに、どうして
要らない子を拾ってあげただけ だと云うのに、どうして、どうして、
どうして!!
どうして私は魔女と呼ばれるのだろうかーーーーーーーーーーーーー…。
また、鋭い痛みを強く得た。
未だあなたに愛しているって、伝えてすら居ないのに。