「この子はね…。私の長年のパートナーなんだよ。」

 

 

皺(シワ)深くも信頼しきって居る穏やかな顔つきに、私は

思わず笑みを浮かべながらも下を向く。

 

そして負ける。

 

気難しくも人間嫌いな助教授が唯一心を許して居るのは私では

無くて この子 だった。私には毒を孕む種類なのかは専門では

無いので分からないが、例え詳しくても詳しく無くても

この子 は私にとって、とても恐ろしい存在なのかは瞬時に

理解出来た。

 

私が唯一だと思ったのだ。助教授は私のものだと思って居たのだ。

なのに何が"人嫌い"だ。人に接するように、恋人にするように、

こうやって慈しんで居るではないか。私に見せつけるかのように。

止めてくれ。その顔は私のために在るべきだろうに。その声も、

伝(ツタ)う手の滑らかさも私のために在るべきだろうに。

 

私の笑みはしっかりと弧をえがいて居るだろうか…。奥底が

煮え滾(タギ)り、お腹が空く。空虚とは、まさにこの事。

 

 

彼 か 彼女 かは私には分からないが、それでも孤独だった私の

拠り所としてあの人が居た。なのにあの人には この子 が居たのだ。

 

【秘密】の正体。秘密の共有は心浮く甘やかさから、

一気に地へと叩(ハタ)かれた。嗚呼、心が染め上げる。慈悲とは

何なのか。

 

 

舌がとぐろを巻き、毒孕む。

 

 

 

 

確かにあの人は蛇に好かれるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



Copyright(C)2020-2024. tankyu-nichiwa. https://www.yuki67hayashi.art/

Master, Yuki Hayashi.