「この子はね…。私の長年のパートナーなんだよ。」
皺(シワ)深くも信頼しきって居る穏やかな顔つきに、私は
思わず笑みを浮かべながらも下を向く。
そして負ける。
気難しくも人間嫌いな助教授が唯一心を許して居るのは私では
無くて この子 だった。私には毒を孕む種類なのかは専門では
無いので分からないが、例え詳しくても詳しく無くても
この子 は私にとって、とても恐ろしい存在なのかは瞬時に
理解出来た。
私が唯一だと思ったのだ。助教授は私のものだと思って居たのだ。
なのに何が"人嫌い"だ。人に接するように、恋人にするように、
こうやって慈しんで居るではないか。私に見せつけるかのように。
止めてくれ。その顔は私のために在るべきだろうに。その声も、
伝(ツタ)う手の滑らかさも私のために在るべきだろうに。
私の笑みはしっかりと弧をえがいて居るだろうか…。奥底が
煮え滾(タギ)り、お腹が空く。空虚とは、まさにこの事。
彼 か 彼女 かは私には分からないが、それでも孤独だった私の
拠り所としてあの人が居た。なのにあの人には この子 が居たのだ。
【秘密】の正体。秘密の共有は心浮く甘やかさから、
一気に地へと叩(ハタ)かれた。嗚呼、心が染め上げる。慈悲とは
何なのか。
舌がとぐろを巻き、毒孕む。
確かにあの人は蛇に好かれるようだ。